ブラックミュージックの歴史
今やブラックミュージックの影響を一切受けずに成り立った近代ポピュラーミュージックは皆無だと思います。
そんなブラックミュージックの始まりは奴隷貿易時代まで遡ります。
1930年代から現代まで10年間隔で新たなジャンルが次々に生まれていきます。
今回はブラックミュージックの主なジャンルの歴史についてさらっと解説したいと思います。
今回の講義で得られる知識
- ブラックミュージックのジャンル
- 様々なジャンルの違い
- ヒップホップの礎とは
16世紀~
ブラックミュージックの始まりは16世紀から始まったと言われています。
ワークソング・スピリチュアル(霊歌)
16世紀~19世紀(1863年に奴隷解放宣言)奴隷としてアメリカに連れて来られ、強制労働させられている時に故郷のアフリカを思い出して歌ったとされているもので作曲者は不明なものが多いです。
また、キリスト教徒が奴隷たちにキリスト教への入信の勧誘を行い、そこから福音音楽に寄っていきました。
そしてゴスペルの起源ともなったスピリチュアル(霊歌)もこの時代に誕生しました。
ミンストレル・ショー
ミンストレル・ショーという演劇が18世紀中盤に大衆に受け入れられます。(これより以前にもシェイクスピアのような演劇が上演されていました。)
ミンストレル・ショーはブラックフェイスと呼ばれる黒塗りメイクを施し、ステレオタイプな黒人を演じ、ショートコントや歌や踊りを披露していました。
当時はワインのコルクを焦がして作った粉を水に溶かして顔に塗ってブラックフェイスを表現していたのだ。
商業的な成功を収めた「ジャンプ・ジム・クロウ」は1876年にアメリカで施行された人種隔離法-「ジム・クロウ法」の名前の由来にも採用されました。
1850年代にブルースが生まれるまでは基本的にブラックミュージックはあまり表に出てこなかった様です。
ブルースとジャズ
ブルースというと皆さん何を思い浮かべますでしょうか?
「悲しい…暗い…」と言ったネガティブな印象や
「ジャズと何が違うの?」と言った様な疑問があるかと思います。
ジャズとブルースの違い
確かに時代という面と発祥の地であるアメリカ南部という意味では似通ったジャンルのイメージはありますが、この2つのジャンルは全くの別物です。
例えるならば「ドラクエ」と「FF」くらい違うのだ!
うん!「セーラームーン」と「おジャ魔女どれみ」くらい違うね!
そもそも生まれた年代、起源が違います。
ブルースは1800年代中盤頃。
ジャズは1900年代に入るか入らないかくらいからだと言われています。
諸説ありますが、ブルースはスピリチュアルやワークソングが起源と言われていて、
ジャズはブルースやラグタイムを起源としていると言われています。
しかし、ラグタイムの起源も文献によって様々でジャズとほぼ同時期に生まれています。
また別の説ではブルースとジャズは全くルーツが違うとかっていう説もあります。
実際、昔過ぎてよくわかってない(自然発生的な)ジャンルということでは無いかなというのが一般的なのかもしれません。
また、演奏方法とリズム(ドラム)が違います。
ビートはブルースがシャッフルで
ジャズがスウィング。
ブルースはギターと歌(弾語り)どちらかというと歌がメイン。
ジャズは色々な楽器で編成されたバンドでどちらかというと演奏がメイン。
もちろん歌が入るのもあります。
ジャズは歌っても歌わなくてもジャンルとして成立しますが、当時のブルースは歌ありきじゃないと成立しませんでした。
フォークソングみたいな感じだね!
ちなみに原初のブルースは「ギター1本+歌い手」という形式ですが、時代が進むとブルースのバンドやオーケストラが出てきます。
ロックンロールの創始者の一人でもある「チャック・ベリー」もブルースからの影響を受けていたと言われています。
また、曲調もブルースは暗め、ジャズは明るめという別れ方もしていました。
ブルースの楽曲はモロに悲壮感が強く、お世辞にも明るい曲では無いのに対して
ジャズはダンスを意図していて、歌わない代わりに明るいテイストがブルースとジャズの明確な違いです。
ジャズはこう見えてダンスミュージックなのだ!
ジャズとブルースのイメージ
と、ココまでの説明で『あれ?』と思われた方もいるかと思います。
そうです!
ジャズって「オシャレなバーでウイスキーとかブランデーに葉巻」っていういわゆる”ハードボイルドで大人でメロウなイメージ”っていうのがあると思われがちですが、原初の形は元々明るい音楽だったんです。
かの有名なジャズプレイヤーの「マイルス・デイビス」やサッチモこと「ルイ・アームストロング」なんかはどちらかというとイメージに近いメロウなイメージです。
これは一般的なジャズのだいぶ後期の方の話になります。
逆にスウィングジャズの「ベニーグッドマン」の様な白人ジャズプレイヤーがダンサンブルナンバーをやってたイメージなのかなと。
ブルースは時代が進むにつれて明るい曲もあったり、バンドになったり…もはや原初のブルースの形とはアベコベになっているいます。
その後の派生したジャンルへのプロセスも異なります。
ブルースはリズム&ブルースやロックに受け継がれ、ジャズはファンクに受け継がれていきます。
ヒップホップはファンクを継承しつつR&Bと融合し、歌ものファン(ニュー・ジャック・スウィング)も取り込む事に成功しています。
R&Bとソウル(ニューソウル)
案外勘違いしている方多いと思いますが、R&Bって最近の音楽だと思っていませんか?
実はスゴイ歴史が長く、それでいてある意味スゴイ曖昧なジャンルなんです。
近年ではブラックミュージックのポップスと言った方がしっくりくるのかもしれません。
まず、前提として今回とりあげるR&Bというのは原初の形のR&Bです!
1940年代に生まれたR&Bを1期。
1980年代後半以降のHip Hopのサブジャンル的なR&Bを2期。という風に定義しましょう。
今回は1期の方のR&Bとソウルについてです。
R&Bとソウルの成り立ち
R&Bは「リズム&ブルース」の略というのは有名ですよね!
ゴスペルのリズムとブルースのグルーヴによってできたジャンルです。
ソウルはR&Bをベースにゴスペルのグルーヴと歌詞が大衆を意識したジャンルです。
日本人の私達にとっては少し複雑で曖昧ですが、どちらも教会音楽であるゴスペルの派生ジャンルという事です。
今ではソウルのアーティストとして世に知られている著名なアーティストも実は元々R&B寄りの曲をリリースしていました。
それが1940年代で1950年代〜はソウルが主役になる年代です。(ロックンロールも栄えた時代)
ゴッドオブソウル
ソウルの創始者と言われている人物がかの有名な「レイ・チャールズ」です。
日本が誇るソウルシンガー「和田アキ子」が敬愛するアーティストの一人です。
レイ・チャールズはゴスペル音楽とR&Bの両刀遣いで演奏した事によりソウルを生み出したと言われています。
Ooh!O-TANI!!
当時、神聖な神を讃える音楽のゴスペルと俗世的で神聖な音楽とは対極にあったR&Bを融合させてしまう辺りがレイ・チャールズのスゴイ所。
しかし、当時ゴスペル派からは「悪魔の音楽」とまで揶揄されて批判されていました。
日本で例えるなら『お経』と『Ado』を融合させるってレベルなのだ!(ヤベーな、おい…)
それをひとつのジャンルにまで押し上げるだけのブームを巻き起こしたと考えればまさにゴッドオブソウルの名を冠するだけあるスゴイ方っていうのはお分かり頂けたと思います。
また、ソウルを商業的に昇華させた人物がサム・クックです。
日本では少し知名度は劣るイメージですが、実力者です。
レイ・チャールズについてはレイ・チャールズの半生を描いた映画『レイ』があるので是非観て頂きたいです。
ニューソウル?!
日本ではニューソウルと呼ばれていましたが、本国アメリカでは当時あまりニューソウルという言葉は使われていなかったそうです。
今までのソウルとは一味違ったソウル
この1960年代〜1970年代という時代は公民権運動やヴェトナム戦争、キング牧師が亡くなり、音楽以外でも激しくアメリカが揺れる時代でした。
60年代までのソウルは「自分、家族、友人、自分の置かれた現状」を曲に落とし込んだ歌詞が多かったのに対し、
ニューソウルは『政治、戦争、貧困、麻薬』などメッセージ性の強い歌詞を積極的に取り入れた曲が多かったという違いがあります。
また、60年代までのソウルは比較的ダンスのためのダンスナンバーが多かったのに対し、ニューソウルはジャズっぽいコードワークやオーケストラの様な西洋音楽やアフリカっぽいパーカッションを取り入れる曲が多く、全体的にメロウで甘めな曲が多かったのが特徴です。
代表的なアーティストとして
カーティス・メイフィールド
ダニー・ハサウェイ
マーヴィン・ゲイ etc…
誰もが名前くらいは聞いた事のある大御所アーティストばかり!
なかなか濃ゆい年代だったと思いますが、3つのジャンルの違いや成り立ちが何となく掴めたでしょうか?
ゴスペルという音楽が深く関わっているといった年代だと思います。
ソウルってメロウなイメージが強くないですか?
でもそれってニューソウル(70年代ソウル)のイメージだったんです。
ロックミュージック
ロックってブラックミュージックじゃないじゃん!
って思われた方もいるかと思いますが、実はブラックミュージックが大きく関わって今日のロックシーンがあります。
ロックンロールとロカビリー
簡単な流れとしてはブルースはジャズの派生ジャンルとして1940年代にR&Bという新たなジャンルを生みました。
そして、そのR&Bを含むブルースやジャズの派生として生まれたジャンルがロックンロールというジャンルです。
それが大体1950年代頃になります。
白人音楽であるカントリーミュージックやブラックミュージック(ロックンロール)を白人達が真似たロカビリーを経ていわゆるロックミュージックに最終的に統合、のちに派生するジャンルとなります。
逸話では、かの有名な「エルビス・プレスリー」がまだ若い頃、路上で歌っていた時に道行く人々に「白いのに黒い音を出す奴」と、言われていたらしいです。
当然この頃はまだロカビリーなんてジャンルは無いので、かなり新進気鋭な才能の持ち主だったという事が伺えますし、「エルビス・プレスリー」は黒人に憧れていたという事です。「マイケル・ジャクソン」とは逆のベクトルですね。
その後、UKロックが1960年代に世界を席巻したため、ロックンロールやロカビリーといったジャンルが急激に衰退していきます。
やっぱりビートルズの勢いってスゴかったんだね。
そうなのだ。前世代を完全に塗り替えてしまったのだ。
ゆえに今も昔も変わらずイギリスはロックが根強い支持を集めているんです。
ロックは不良?
ロックは当時、かなり不良な音楽でした。
ビートルズとか今見ると全然不良っぽく見えないよ?
ヒゲ面で髪が長い人いるけど、むしろ好青年に見えちゃうけど気のせい?
日本の80’sもなかなか不良っぽいですが、その影響は恐らくパンクから来ています。
ミクスチャーバンド
日本では色々なジャンルをクロスオーバーに取り入れたバンドの事をミクスチャーバンドなんて言いますが、日本以外では「オルタナティブ・ロック」っていうひとつのジャンルとして成り立っています。
オルタナティブ=2者択一という意味です。
Hollywood UndeadやKottonmouth Kings辺りはヒップホップ 好きは完全にツボだと思います!
ファンクとエレクトロ
ファンクとヒップホップは非常に密接な関係にありますが、ファンクとはなんなのかっていう面を掘り下げたいと思います!
ファンクの生みの親
ファンクは「James Brown」と「JB’s」がそのベースを創ったと言われています。
キングギドラの「公開処刑」という曲の中でも
「K Dub Shine」の”もう一度ジェームスブラウンから聴け”
というフレーズが飛び出すなど”ヒップホップの父でもあるファンクから聴き直しなさい!”っていう意味合いなのがわかります。
語源について
Funkを辞書で引いてみると…”ビートが強烈で泥臭く、野性味のあるジャズやロック。”という意味があります。
“悪臭”という意味もあります。
“臆病”とか”怖気付く”っていう意味もある様です。
で、その悪臭というものがスラングなんですが本来のFunkというものの意味に近いものになる様です。
つまり…Funkとは臭いである!のだ!
1960年代にソウルからニューソウルとファンクに分派し、のちにP-FunkやZappを輩出します。
ファンキーという語源の通り、今までのソウルやジャズには無いハネ感があるのが特徴でシャウトを多用するスタイルがあります。そのガチャガチャ感がイイ!
ファンクの衰退〜ディスコの繁栄
ファンクは世界に多くの熱狂的なファンを獲得したのにも関わらず、全盛期は意外にも短命で本国アメリカでは当時勢いを失ってしまいます。
1977年に公開された映画『サタデーナイトフィーバー』を皮切りにディスコブームの兆しが出てきて最終的に飲み込まれてしまいます。
ディスコ自体は複合的なジャンルであり、ファンクの要素も多いに吸収したジャンルではありましたが、世の中のエレクトロの波には逆らえませんでした。
当時の最新鋭技術であったリッチなサウンドのシンセサイザーやよりダンスナイズドされたディスコに人々の関心は向いてしまいます。
しかし、しばらくするとディスコのスタイル(歌詞が浮世離れしていた)は若者には刺さりにくくなり、ブロックパーティーではDJ達がレアグルーヴを回していたためヒップホップが徐々に浸透していきました。
ディスコ流行の裏側ではクラブDJ達がソウルやファンクのレコードをピッチを早くして流してディスコ風にプレイしていた所から「ハウスミュージック」の基礎ができていきます。
そして、その後ハウスはマイノリティの間で密かに流行り出したという説があります。
また、Gangsta Rapをやる前のDr.DreやDJ Yellaが「ワールド・クラス・レッキン・クルー」はディスコ系やエレクトロ系といった音楽を主にやっていました。
ここら辺の事情はN.W.A.の伝記映画『Straight Outta Compton』の序盤で描かれていますね。
ディスコブームは日本でも過熱し、バブル期を象徴するブームになりました。
「マハラジャ」とか「ボディコン」ってワードはバブル期を連想させるよね!
くまごろう。ちなみに「ボディコン」って「ボディコンシャス」の略って知っていたか?
「コンシャス」は「意識」って意味。
つまり「体のラインを意識した服」って意味になるのだ。
ファンクの再来
一時低迷していたファンクでしたが、ヨーロッパや日本といった本国以外の国々のマニアによってよりアンダーグラウンドなファンクを発掘されるという、パラドックスを引き起こしました。
それを俗に言う[Rare Groove(レアグルーヴ)]というカテゴリーに分類する事ができます。
また、ヒップホップの二次創作物(サンプリング)によって逆に80年代初頭〜90年代に注目されるアーティストや楽曲が多く存在します。
「Sugar Hill Gang/Rappers Delightは「Chic/Good Times」をサンプリングし、ラップブームの火付け役になりました。(厳密にはGood Timesのジャンルはディスコかなと個人的には思っていますが)
Chic自体は時代によって様々なジャンルの複合的なバンドでした。
また、近年では世界各国のNew Funkとも言える若い世代が作るFunkも注目を集めており、Dam FunkやTuxedo、エレクトロとFunkの融合的なDuft PunkやDax Riders(Zappの影響を色濃く受けている)なんかもカッコイイですよ!
G-Funkの様なファンクを踏襲したヒップホップは根強い人気があり、2020年代版風にアレンジされて最近のTRAPやDrillとは別に一部で盛り上がりを見せています。
まとめ
ブラックミュージックの原初は16世紀から始まり、1930年から最盛期を迎え新たなジャンルを数多く生み出してきました。
また派生ジャンルであるロックやハウスなど今では完全に独立して世界の多くのミュージックラバーを魅了しています。
ブラックミュージックがこれだけ繁栄しなければ今日のほぼ全てのジャンルの音楽は存在しえなかったと言っても過言ではありません。
しかし、そこには多くの偏見と差別をアフリカ系アメリカ人が経験し、苦悩と挫折、努力たくさん詰め込まれています。
歴史を知り、いつも聴いてる音楽に先人にリスペクトして私達も聴かなきゃなって思います。
ブルースの父はワークソングでゴスペルの母は霊歌。
ワークソングと霊歌が恋に落ちてジャズとゴスペルが生まれて
ジャズとゴスペルはそれぞれソウル、R&B、ロックンロール、FUNKを生んで
FUNKはHIP HOPを生んで
HIP HOPはNew Jack SwingやTRAPを生んだ。
Hip Hopにとってジャズはおじいちゃんって所ですかね。
少し駆け足気味にザっと紹介しましたが、大まかな流れはこんな感じです。
今回はブラックミュージックの歴史についての講義でした。