テンポから考えるヒップホップ
テンポとは簡単にいうと「楽曲の速さor遅さ」という意味です。
テンポ感というのは例外もありますが、そのジャンルやトレンドが反映されるなかなか重要な要素になります。
テンポを示す値である「BPM」とは「Beat Par Minutes」の略であり、1分間で何回ビートが刻まれたかの値がBPMになります。
ヒップホップにおいても黎明期~現代まで時代、地域、特定のジャンルで決定的なBPM=テンポ感がいくつかでてきました。
今回は「これからヒップホップを聴いていくよ」という方や「DJやってみたいよ」、「これからビートメイクしていくよ」という方に向けてヒップホップのテンポ感についての講義になります。
今回の講義で得られる知識
- テンポ感=BPMとは?
- 移り変わるBPMの歴史
- ビートメイクに必要不可欠なBPMの設定
BPMとは?
冒頭にも言ったようにBPMとは1分間に何回ビートを刻んだか。です。
”ズン チャ・ズン チャ”で4カウントになるよ。
手拍子で1.2.3.4、2.2.3.4…みたいな。
筆者の頭の中では1分間に「チャ」の音=スネアの音を数えて×2した値がBPMになります。
BPM100の曲であればスネアの音が1分間に50回鳴ったということになります。
ちなみに最近はスマホのアプリで簡単にBPMを計測できるようになりました。
ビートメイクにおいては基本的にBPMを最初に決めます。
もちろん完成系が当初決めたBPMとかけ離れることもありますが、完ぺきに作り込んでから大幅にBPMを変更することはあまりないかと思います。
ヒップホップのBPMとは
ヒップホップの楽曲のBPMレンジはおおよそBPM80~120の間です。
これは地域や年代、スタイルによって様々ではありますが、基本的にこのBPMレンジに収まっています。
えー!最近の曲でBPM50台の曲あったよ!
それはBPMを半分の50台で取ってるからなのだ!
倍のBPMで取るとBPM100台ってことなのだ!
少し分かりずらいと思いますが、BPM100の曲は半分のBPM50として認識することもできます。
これを俗に言う「ハーフで取る」という現象です。
ヒップホップという音楽はダンスミュージックの一部なので「ダンスする」ことに主眼を置くことで倍でBPMを刻んだり、半分でBPMを刻んだりすることがあります。
また、高等技術ではありますが、DJ界隈では⅓や¼で刻むこともあります。
DJは主にBPMを一気に下げたり、上げたりする時に飛び道具的にそういったテクニックを使うことがあります。(大概はうまくキマらないと思いますが、うまくキマると最高にカッコイイDJになれます!)
オールドスクール(1970年代〜80年代前半)
BPM100〜120が多かった時代です。
時代背景的にはファンクを元ネタとしてほぼまんま使いしていた事に起因します。
当時の楽曲はDJが歌の入っていない部分=ブレイク(間奏部分)を繋げた上にラップを乗せるというのが大半を占めていました。
いわゆるブレイクビーツの上にラップを乗せるというのはファンクの元のBPMに準じていたということになります。
生バンドを従えているパターンもありましたが、当時はディスコが流行していたため、BPMもディスコに寄っていました。
ダンスミュージックであるディスコは当然ダンスフロアにいるお客さんたちを躍らせるための楽曲のため少し早めにBPMが設定されていました。
よってこの時代のヒップホップもパーティーラップと呼ばれるものが多くノリノリで明るい雰囲気が特徴の時代でもありました。
1979年にリリースされたThe Sugar Hill Gang/Rapper’s DelightはBPM115です。
1980年にリリースされたKurtis Blow/The BreaksはBPM113でした。
1982年にリリースされたメッセージ性の強い楽曲Grandmaster Flash&The Furious Five/The Messageは少し遅めのBPM100でした。
同じく1982年にリリースされたAfrika Bambaataa&The Soulsonic Force/Planet Rockは例外的にBPM128でしたが、この曲はエレクトロヒップホップという新たなサブジャンルでした。
ニュースクール(1980年代後半~1990年代初頭)
1980年代後半〜1990年代初頭はオールドスクールの時代よりも少しBPMレンジが下がりBPM95〜110くらいが多かった時代です。
時代背景的にはRun DMCやJuice Crew、Boogie Down Productionといったこの時代を象徴するようなグループやクルーの台頭に加え、Eric B&RakimやN.W.A.といった新たなスタイルや革新的なラップが栄えた時代でした。
Run DMCとAerosmithのコラボ作品Walk This Wayは大体BPM105位です。
ちなみにこのWalk This Wayという曲は「踊るさんま御殿」のエンディングに流れてる曲です。
Juice CrewのMC Shanが1986年にリリースしたThe BridgeはBPM96。
この曲をディスソングとして勘違いしたBoogie Down ProductionのKRS-OneがリリースしたSouth BronxもBPM96でした。
Eric B&Rakimの1987年のPaid In FullはBPM99。
N.W.A.の代表的な作品F*ck The PoliceやStraight Outta Comptonも大体BPM100位でした。
Madonna/Holidayをほぼまんま使いした1986年のMC Miker G&DJ Sven/Holiday Rapは例外的にBPM115位でした。
決して早くは無いが遅くもないって感じの曲が多い時代でした。
90’sヒップホップ(1990年代中盤頃)
この時代はBPM100を超える曲が減少していった時代です。
時代背景的には東西抗争の真っ只中。というよりは西海岸勢が圧倒的に有利な時代であり、タテノリのヒップホップからヨコノリのヒップホップに移り変わった時代と言っても過言ではない時代でした。
1993年リリースのSnoop Dogg/What’s My NameはBPM97。
1994年リリースのThe Notorious B.I.G./JuicyはBPM98。Big PoppaはBPM85。
同じく1994年リリースのNasの大名盤であるIllmaticはアルバム通してゆったりめでおおよそBPM90台前半でまとめられています。
1996年にリリースの2pac/California LoveはBPM92位。
ずっしり、ゆったりとした曲が多い印象の時代でした。
新興勢力の台頭(2000年代初頭)
BPMレンジは比較的広めでBPM80〜120位でBPMを頼りに年代を割り出すのが多少難しくなってくる時代です。
しかし、地域やラップスタイルによっておおよそ見当をつける事ができる年代です。
また、商業的に最もヒップホップが成功した時代と言える年代です。
EminemやJay-Z、Kanye West、T.I.、Nelly等地域が分散した時代。
また、サウス勢が急激に市民権を得た時代でもあり、激動の時代です。
双方少し年代が違いますが
Eminem/Without MeがBPM112。
T.I./Live Your LifeはBPM80。
ということでほんの数年足らずでBPMがガクッと下がったり、
逆にFlo Rida/LowのようにBPM128という曲があったりと振れ幅がある楽曲が絶えず入れ替わる時代でした。
Trap&EDMが入り乱れる時代(2010年代〜現在)
前述の時代の続きの時代ですがBPMレンジがとにかく広く、ヒップホップと他のジャンルとの融合が目覚ましい時代でした。
大別するとEDMのような「ダンスミュージック寄りの曲」か「Trapでサウス寄りの曲か」でBPMが決まります。
ただし、これは数字のマジック的な要素が含まれます。
前述の「BPM60の曲」と「BPM120の曲」は数字だけ見ると倍違いますが、音楽を聴いていてビートにノるタイミングは実は同じなのです。
ようは半分でビートを刻むのか倍でビートを刻むのか。
つまり現行のヒップホップはほぼBPMレンジが同じくらいという事になります。
なのでBPMレンジは50〜160ととんでもない数字の開きをしています。
50→倍の100であり、160→半分の80。
つまり、80~120の間ということで筆者が提唱したBPMレンジに大抵は収めることができます。
ビートメイクのBPM
ヒップホップのサブジャンル・スタイル、年代でおおよそのBPMレンジについて解説してきましたが、ここからはビートメイクに焦点を当てていきます。
ビートのタイプを決めよう!
ビートメイクをするにあたって自分が作りたいビートのタイプはなんなのかというのが大事になってきます。
例えば…
「今流行っている曲っぽいビートを作りたい。」のであれば最新のヒットチャートを見てBPMを計ってみましょう。
あるいは…
「90’sっぽいビートがつくりたいな。」ならば1990年代に流行った曲を探して自分が作りたいタイプの楽曲のBPMを計ってみましょう。
逆に…
「BPM100で作りたいな。」と先に考えているのであればBPM100の曲をリファレンスとして探してみましょう。
というようにBPMを意識してビートメイクに取り掛かることを心掛けていきましょう。
日本のビートタイプ
日本のヒップホップでパッと筆者が思い付いたのが、「Bad Hopと舐達磨」が現在のヒップホップの二極化したイイ例だと思います。
Bad HopはUSの最新を追ってTrapやDrillといった楽曲を制作しています。
対して舐達磨は90’sを意識した楽曲(ブーンバップ)を制作しています。
自分がどっちの楽曲に心打たれたかによって変わると思いますが、基本的にはこの2つの選択(トラップorブーンバップ)が一番オーソドックスな気がします。
筆者は90’sが好きなので基本的には90’sっぽいテイストのビートを作っていますが、ここ5年くらいはBPMレンジがグッと下がってBPM60台のビートを作る機会が増えました。
というのも筆者は「ダウンテンポ」や「アンビエント」というジャンルにここ数年は傾倒していったというのが大きいと思います。
「BPM60くらいで作る」ということを最初に考えているので作っている内にこういったビートが増えていきました。
ちなみにBPM60のビートを作ろうとした時はBPM120で制作を進めていきます。
なので皆さんもビートメイクする際は「最初にBPMを決める」を意識しましょう。
まとめ
1970年代後半(オールドスクール)〜1980年代はBPM100〜120位
1980年代後半〜1990年代前半(ミドルスクール)はBPM95〜110位
1990年代中盤はBPM90〜100位
2000年代〜はBPM80〜120位
2010年代〜(現在)はBPM60(120)位
おおよそではありますが、年代や地域・スタイルで大体のBPMはつかめたかと思います。
必ずしも当たるという訳では無いですが、参考程度に覚えておいて損は無いですね。
ちなみに筆者はBPM108が好きみたいです。
さっきiPhoneのBPMカウンターのアプリで何も考えずにビートを刻んだら108と出ました。
無意識にビートを刻むBPMがその人が1番しっくりくるBPMなのかなと思います!
今思えば、その昔筆者がDJやってる時に1番繋ぎやすくて自分が「心地イイBPM」って確かにBPM105〜110位な気がしてきました。
DJやビートメイカーの方もそうでない方も自分が好きなBPMレンジを探ってみるのも案外新たな発見があるかも知れませんね。
今回は「テンポから考えるヒップホップ」についての講義でした。