Bad Hop VS 舐達磨
2023年下半期、日本のヒップホップ界隈を最もザワつかせたであろう「Bad Hop VS 舐達磨」のビーフ。
今回のビーフの事の発端は両者とも関係の無い所から始まりましたが、話がもつれてあれよあれよと「Bad Hop VS 舐達磨」という構図が生まれました。
事の経緯は?
因縁渦巻くビーフの行方は?
今回はBad Hopと舐達磨についての講義になります。
- Bad Hopとは
- 舐達磨とは
- ビーフの原因と行く末は?
ビーフに発展した経緯
Rykey(現:Rykey Daddy Dirty)とBad HopのYzerrのビーフが勃発したことが今回のビーフの一番最初の出来事になります。
Rykey VS Yzerr
Yzerrが2019年3月にリリースした「Back Stage feat.Tiji Jojo」に対してRykeyは「この曲はパクり」とSNSで発信し、SNS上でビーフに発展しました。
2019年4月にRykeyは舐達磨のBadsaikush(以下:バダサイ)との楽曲「You Can Get Again」をリリースします。
SNS上でも楽曲でも舌戦を繰り返してきたRykeyとYzerrでしたが、Rykeyが刑務所に入ったことでこのビーフは沈静化します。
そして2023年9月にヒップホップの野外フェス「The Hope」のアフターパーティーでRykeyとYzerrが顔を合わせ、この時小競り合いに発展してしまいます。
この騒動にラッパーの孫GongがYzerrを小突きケンカに発展。
そのケンカの仲裁に入った阿修羅MICがこの小競り合いに参入。
さらにYzerrの双子の弟であるT-Pablowも参入し、カオスな様相を呈していきます。
後日、酒に酔っていたとは言え、手を出してしまったことを謝罪したいと孫Gongから申し入れられますが、Yzerrは謝罪を拒否します。
2023年10月、ヒップホップフェス「AH1」でも孫Gong側から再度謝罪を申し入れられますが、再度拒否。
孫Gongと阿修羅MICを帰らせるようにイベント関係者に通達するも会場内で阿修羅MICの姿を発見し、Yzerrの怒りが頂点に達します。
ライブの中止
AH1でのライブを終えた舐達磨はバックステージでインタビューを受けていました。
怒りが頂点に達していたYzerrはインタビュー中のバダサイに掴みかかります。
この後、Bad Hopはライブの予定でしたが、機材トラブルを理由にライブを中止してしまいます。
後日、YzerrはSNSのライブ配信でこれまでの経緯をファンに対して説明と謝罪をしています。
ちなみにこのライブ配信で舐達磨のメンバーG-Plantsと過去に「飲んだことがあって普通にイイ人」とYzerrは言っています。
が、この後に舐達磨の総力を持ってBad Hopがディスられます。
舐達磨のターン
2023年12月1日に舐達磨は「Feel Or Beef Bad Pop Is Dead」というYzerr及びBad Hopに対してのディス曲をリリースします。
Feel Or Beef Bad Pop Is Dead
曲のタイトルでもろにBad Hopを批判し内容も非常に辛辣であり、「コレはビーフである」と明確に示しました。
この曲では主に「売名」、「パクり」、「AH1でのライブの中止」に対して言及しています。
パクりとサンプリングの違いをビートも含め、ラップで提示しています。
6:50にも及ぶ長編で構成されており、3人で1バース40小節ずつラップしています。
また、MVでは牛肉=ビーフを食べており、撮影されたのは前述の「The Hope」のアフターパーティーで使用された会場です。
とにかくこの曲はBad HopとYzerrは「パクリ」で「ライブをバックレた」ことに終始言及しています。
過去の因縁やYzerrの個人的?な怒りによってインタビュー中に掴みかかられたので舐達磨側がディスするのは正当だと思います。
ディス曲も秀逸だったことで舐達磨の評価はすこぶる上がったと思います。
I Guess I’m Beefin’
12月15日には孫Gong率いるジャパニーズマゲニーズも舐達磨の「Feel Or Beef Bad Pop Is Dead」と同じビートを使用して「I Guess I’m Beefin’」を公開しました。
こちらも善し悪しは別としてかなり攻めまくりな内容になっています。
孫Gongは一貫して謝罪の姿勢を見せていましたが、なぜこのタイミングで追い打ちのディス曲をリリースしたかは謎です。
ちなみにMVでは「舐達磨のインタビュー中に乗り込んだYzerrがなぎ倒した照明」を表現した描写があり、凝った演出もされています。
2023年の年末に孫Gongのインスタライブでこれまでのことについて謝罪しました。
主にAH1のスタッフとお客さんに謝罪。
ネット上では
「謝罪するくらいならディスソング出すなよ」であったり、
「この人なにがしたいのかわからない」と言った孫Gongの支離滅裂な言動に対して批判が集まりました。
Yzerrのターン
年末に意味深なSNSの投稿があったものの、楽曲をリリースしてこなかったYzerr。
元々はアンサーソングを作ろうと思っていなかったらしいのですが、怒りとリリックが沸き上がってきたため、リリースするかは別としてリリックを書き溜めていたようです。
そしてついに舐達磨のディス曲から約2ヵ遅れの2024年1月28日にアンサーソング「guidance」をリリースします。
リリースまでの経緯
Yzerrは表に出ていない話もたくさんあるようで、曲にできてない部分もあるようです。
Yzerrはバダサイが件の「Feel Or Beef Bad Pop Is Dead」をリリースする前にSNSのDMを使ってコンタクトを取ってきたことをリバトークで語っています。
そのDMでは「川崎に行くから、話を聞いて欲しい」と持ち掛けてきたようです。
それなのにかなり長編のディス曲をリリースしてきたことで舐達磨のことを「コスイ奴ら」と言いつつ「根はイイ人たちなんだよなぁ」と語っていました。
きっとYzerrもすごくイイ人なのだ。
ただ、ディスってくる内容が2019年の「You Can Get Again」と基本的に同じだったため、Yzerrは少し呆れ気味でした。
バダサイが同じことをずっと言ってるっていうのはデフォルトだよね。
「焼肉食べながら寿司つまんでるのと一緒」
「パスタ食べながら蕎麦を食べるのと一緒」
とYzerrは揶揄しています。
元々、ディス曲を出すつもりも無かったようで、
「暇を持て余していたからリリックがどんどんでてきた」
と語るYzerrは幻の一曲としてguidanceを位置付けていました。
しかし、ファンからの熱望によりリリースに至ったようです。
guidance
2024年1月21日配信のBad Hopのラジオ「リバトーク」でYzerrはguidanceの1バースを初披露します。
2024年1月28日には完全版である楽曲「guidance」をリリースし、2日で200万再生を突破しました。
リバトークでは「長いよww」と自分でツッコんでいました。
圧倒的な完成度を誇るこの楽曲はまるでフリースタイルバトルのアンサーのようにディスられたことに的確にそして丁寧に返しています。
バダサイの
「資本主義の豚」に対して
Yzerrは
「快楽主義の豚野郎」と痛い所を突いていきます。
Yzerrの
「先に売れてた俺に売名は無理がある」
というラインと
「売名だけで立てるなら立ってみろよ東京ドーム」
というラインは舐達磨がディスソングで追及していた「売名行為」というワードに的確にアンサーを返しています。
3バース目では舐達磨側が自ら選んだイリーガルな道に対して、アメリカのマイノリティたちが作り上げたヒップホップ文化について言及しています。
Yzerrは我がブログ「夜ふかしさんのためのHIP HOP講座」でまさに言いたいこと 「 ヒップホップの歴史を理解しよう」を言語化してくれているのだ。
MVも仲間たちと牛肉=ビーフを食べていた舐達磨に対して
Yzerrはたった一人で牛肉を食べています。
「このアンサーは一人で充分だ!」
「徒党を組まなきゃ何もできないだろ?」
と言わんばかりの演出に思えます。
また、Bad Hopのラジオ、リバトークではサンプリングにこだわっている舐達磨に対してサンプリングの許可を取って無いことに対して笑いながら「ヤバいだろ」的な発言をしています。
舐達磨がブーンバップのビートでラップしていることに対し、
「トラップのビートだと舐達磨はラップできない」と発言しています。
このYzerrのguidanceは舐達磨に合わせ、ブーンバップビートでアンサーを返しています。
ビーフの考察
筆者の個人的な見解では後発のYzerrの方が圧倒的に優勢だと思います。
さらに個人的に筆者は元来、Bad Hopよりも舐達磨の方が好みです。
それなのにも関わらず、Yzerrが優勢だと思った理由として
・Yzerrのアンサーがとにかく秀逸。
・舐達磨への疑問の数々。
です。
秀逸なアンサー
先ほどの節でも言った通り、Yzerrの的確なアンサーはこのヒップホップという歴史において早くも伝説級と言っていい程、完ぺきなアンサーだったと思います。
このアンサーに対してさらに舐達磨側が再アンサーをかましてくれればまた話は変わってくると思います。
実際にguidanceのYouTubeのコメントでも
「舐達磨ヤバいと思ってたけどguidance聴いたらYzerr優勝だわ。」
といったような鞍替え的なコメントが散見されました。
リリースするタイミングが遅かったというのはマイナスに作用したように思えますが、それさえもめくりかえしてくるYzerrの力量はやはりスゴかったと思います。
舐達磨への疑念
Yzerrが舐達磨についてラジオで語ったことが「全て本当のことだったとすれば」の話になってしまいますが、少なくとも舐達磨側は多少なり話を盛り、ウソをついていると思います。
楽曲だけを聴いていてもYzerrが言ってるように内容が偏っていると思いますし、
「Yzerr」という単語でモジれないからなのか
弟の「T-Pablow」でモジっています。
あくまで筆者はそう感じました。
ちなみに舐達磨側が提示する「パクリ」と「サンプリング」の定義はすごく曖昧です。
サンプリングすること自体がパクリと捉える方もいます。
また、ヒップホップという言葉自体に「新しくて、カッコイイものに飛びつく」という意味があります。
さらに言えば、本国アメリカでは
「トラップが今熱いらしいぞー!」
となれば基本的にみんながトラップを作りますし、
「ジャージークラブが今来てるぞー!」
となれば例に漏れずみんながジャージークラブを作ります。
つまり、サンプリングやヒップホップという文化を理解していないのはどちらか…
都合のイイ塩梅で事実や概念を捻じ曲げているのはどちらか…
というのを軸に考えるとBad Hopを「パクリ」呼ばわりする主張は筆者的に違うのかなと思います。
まとめ
大本を辿るとRykeyから始まったBad Hop VS 舐達磨のビーフ。
色々な人たちを巻き込んで話が大きくなりました。
両者のディスソングはどちらもハイレベルで聴き応え満点なのでまだ聴いたことないよって方は必聴で!
ただ、この騒動暴力沙汰にならないよう気を付けて欲しいですね。
現時点(2024年2月1日)では両者から次の一手は見られませんが、今後の展開に注目が集まっています。
今後どうなるのかかなり気になりますね。
今回は世間を騒がすBad Hop VS 舐達磨のビーフについての講義でした。