HIP HOPの音源化(レコード化)
ブロックパーティーから派生したHIP HOP文化。
文化としてNYのゲットーで暮らすマイノリティのためのヒップホップは1979年を皮切りに次々にリリースされていきます。
のちにOld School(オールドスクール)と言われる最初期の音源は文化的価値があり、その粗削りで無骨なヒップホップが好きという方も多いかと思います。
今回はヒップホップの音源リリース元年ともいうべき1979年についての講義になります。
今回の講義で得られる知識
- 意外なラップの初音源
- Sugarhill Recordsとは
- 1979年の特徴
ラップの初音源
「ラップの初音源化といえば?!」
と聞かれたら?
「The Sugarhill Gang/Rapper’s Delight」
と答えたくなると思います。
しかし、実は近年「Fatback Band」というグループの「King TimⅢ(Personality Jock)」という楽曲が初音源だと言われています。
Fatback Band
Fatback Bandはファンクやディスコのバンドでした。
1970年に結成されたバンドでメンバーの入れ替わりがあるものの20名以上のメンバーが参加したアメリカのバンド。
1972年~1987年の15年間に22作品ものアルバムをリリースする多作バンドです。
ちなみに1986年はアルバムをリリースしていません。
バンドの後期ではPOPバンドに転向し、本国アメリカよりもイギリスでウケていたようです。
バンド初期はファンクを基調にした楽曲をリリースしていましたが、70年代後半はディスコを基調にした楽曲をリリースしていました。
そして1979年当時、若者の間で流行っていたヒップホップ・ラップを取り入れ、1979年の3月に世界で始めてラップを収録した曲「King TimⅢ(Personality Jock)」をリリースします。
「The Sugarhill Gang/Rapper’s Delight」はこの年の9月にリリースされたため、Fatback Bandの方が半年早かったのです。
しかし、ラップで始めてヒット曲を生み出したという意味では「The Sugarhill Gang/Rapper’s Delight」が初でした。
ラッパーズ・ディライトとは
記念すべきラップのヒット曲を華々しく飾った「Rapper’s Delight」はSugarhill Recordsからリリースされ、このレーベルのシルヴィア・ロビンソンという人物がプロデュースしました。
The Sugarhill Gangというグループはほぼ素人だった若者3人をシルヴィアがスカウトした寄せ集めグループでした。
Wonder Mike(1957年4月30日生まれ)ニュージャージーのイングルウッド出身でラテン系。
Big Hank(1956年1月11日~2014年11月11日)ニューヨークのブロンクス出身でMC兼マネージャー。
Master Gee(不明)ニュージャージーのティーネック出身。
シルヴィアがこの3人と「金曜日に出会い、月曜日にRapper’s Delightをレコーディングした」という逸話が有名です。
当時、全米でヒットしていたディスコ曲の「Chic」というバンドの「Good Times」をネタ使いし、Sugarhill Recordsのハウスバンドにバックトラックを演奏させました。
Rapper’s Delightは全10ヴァースにおよび、フルバージョンともなると実に14分にもなる超大作です。
1ヴァース目の頭「I Said a HIP HOP、The Hippie To The HIP HIP Hoppa~」というリリックはこのジャンルをヒップホップと呼ぶようになった一因ともされています。
この曲のBig Hankのリリックは実はBig Hankが考えたリリックではなくGrandmaster Cazという人物が書いたリリックでした。
Grandmaster CazはBig Hankに「リリックを書くのを手伝って欲しい」と頼まれた際、自身のリリックを書き溜めたノートを丸ごと貸してしまいました。
そして当然のように丸ごとパクられてしまいます。
2ヴァース目に”C-A-S-AN the O-V-A and the Rest Is F-L-Y.~”というフレーズがあり、繫げると「Casanova FLY」になります。
「Casanova FLY」はGrandmaster Cazが一時期使っていたA.K.A.でした。
*A.K.A.=As Knows Asの略でまたの名をという意味。
Big Hank…やりおったな?
ちなみに…
Grandmaster Caz(1960年4月18日生まれ)はDJ兼MCでした。
親友でもある「DJ Disco Wiz」(1961年8月11日生まれでラテン系)とBig Hankと共に「Mighty Force」というグループ1970年代に結成しています。
「The Cold Crush Brothers」のメンバーでもあります。
どちらかというとこちらの方が有名。
1977年のニューヨークの大停電の際は停電していることをいいことにDJ機材を窃盗しました。
Sugarhill Recordsとは
1950年代「Mickey&Sylvia」の片割れの「Sylvia Robbinson(シルヴィア・ロビンソン)」とその夫(ジョセフ)が1970年代末期に「Sugarhill Records」を設立します。
そのレーベルの第一弾アーティストとしてシルヴィアが「The Sugarhill Gang/Rapper’s Delight」をプロデューサーとして手掛けました。
プロデューサーのシルヴィアは「HIP HOPのゴッドマザー」とも言われる人物で1957年に「Mickey&Sylvia」名義で「Life Is Strenge」という曲をヒットさせたり、1973年にはソロ名義で「Pillow Talk」という曲をリリースし、R&Bチャートで1位を獲得するなどアーティストとしても才能のある人物です。
Rapper’s Delight以降もいろいろなグループを取り込みラップ曲をリリースし続け、1980年代中盤までヒップホップ業界の覇権を握ります。
ホントにこの頃のSugarhill Recordsは破竹の勢いだったのだ。
しかし、1985年に競合他社やヒップホップ業界の変化に対応できず、レーベルを閉鎖しました。
あらら…没落するのも意外に早かったんだね!
御三家が出揃う
当時のラップ御三家ともいうべき
The Sugarhill Gang
Grandmaster Flash&The Furious Five
Kurtis Blow
が楽曲をリリースした1979年。
Grandmaster Flash&The Furious Five
「Grandmaster Flash&The Furious Five/Superrappin’」は1979年にリリースされましたが惜しくもラップレコード1番乗りは飾れませんでした。
「The Whole Darn Family/Seven Minutes Of Funk」ネタ。
「コレぞオールドスクール!」と言うべきマイクリレーを堪能できる楽曲。
この時はまだEnjoy Recordsからリリースしていましたが、のちにSugarhill Recordsに移籍し、名作「Message」をリリースします。
Kurtis Blow
「Kurtis Blow/Xmas Rappin’」も1979年にMercury Records(マーキュリーレコーズ)からリリースされた曲でした。
前述の2曲の勢いに乗じて50万枚を売り上げました。
「Queen/Another One Bites The Dust」ネタ。
この曲はラッセル・シモンズがプロデュースした最初期の作品でした。
ちなみにDef Jam Recordsは1984年に設立。
クリスマスシーズンにリリースされたこの曲は「クリスマスシーズンになれば毎年聴かれる」というロジックに基づいてリリースされました。
ラッセル・シモンズの策士的な一面が垣間見える曲となりました。
1979年にリリースされた楽曲
商業的にあまり売れなかったせいで一般的に認知されていないのが残念ではあるものの
「Lady B/To The Beat,Y’all」
「Spoonie Gee/Spoonin Rap」
なども1979年にリリースされた楽曲になります。
Lady B
「Lady B/To The Beat,Y’all」はTECという地元フィラデルフィアのレーベルからリリースされた楽曲です。
フィメールラッパーの単体作品では恐らく最古の作品になります。
この曲は1980年にSugarhill Recodsから再発されました。
Lady BはフィラデルフィアのWHATというラジオ局のラジオDJでした。
このヒップホップという文化をフィラデルフィアで根付かせるために自身が曲を出して体現しました。
「The Sugarhill Gang/Rapper’s Delight」に着想を得たと思われるオールドスクールらしい楽曲。
うん、うん、イントロのパーカッションが確かにRapper’s Delightっぽいね。
ちなみにLady Bは後に「Gangsta Rapの始祖」として考えられているフィラデルフィアのラッパー「Schoolly D」の楽曲をラジオで流すことを拒否した人物でした。
もちろん当時はGangsta Rapというジャンルは存在しておらず、危なっかしい楽曲を公的な放送で流すことはかなり厳しい時代でした。
Spoonie Gee
「Spoonie Gee/Spoonin Rap」は「Gangsta Rapの始祖の中の始祖」とも呼ぶべき記念すべきハスリンラップを披露しています。
実はこの曲が本当の意味で「Gangsta Rapの始祖」とする意見も近年では増えてきました。
Spoonie Geeは伝説的なグループ「Treacherous Three(トレイチャラス・スリー)」の元メンバーであり、エンジョイレコーズの創設者と親戚でした。
このレコードのリリースはなぜかエンジョイレコーズでは無く、「Sound Of New York」というレーベルからのリリースでした。
御三家たちと比べると売り上げも知名度も低いけど、カッコイイ楽曲なのだ!
その他のリリース
「Dr.Superman&Lady Sweet/Can You Do It(Superman)」は恐らくフィメールラッパーが参加したレコードでは最古だと思われる楽曲ですが、情報が少なく詳細は不明です。
「Lady D&M.C.Tee/Nu Sound」はReflection Recordsからリリースされた楽曲ですが、このレコードもほとんど情報がありません。
ただ、上記2グループの楽曲もすばらしく、歴史的価値のある楽曲なので是非聴いて欲しい作品です。
そう考えると実はフィメールラッパーも1979年の時点で意外に結構レコードを出しているというのがわかります。
まとめ
今回はヒップホップの音源のリリース元年である1979年にフォーカスしました。
1979年という年に限って言えば、ファンクからの影響というよりはディスコからの影響を色濃く受けていたと思います。
実際、こうやってフォーカスできる年というのは年々少なくなっていくので、ある意味そういう年は貴重だったりします。
時代が進むにつれリリースが多くなるので全てを追うのは困難になります。
「HIP HOPの市場はそれほど成長した」ということでもあるので嬉しい限りですね。
今回は1979年にリリースされたヒップホップの講義でした。